小津安二郎監督「浮草物語」と「浮草」サイレントからカラーのトーキーへ
 小津監督が同じあらすじで2本撮った珍しい映画です。旅回りの役者がその土地で知り合った女に産ませた息子が大きくなり、彼をおじさんと思っています。今一緒に暮らす副座長が嫉妬し、息子を娘役の妹分に誘惑させます。そこで起こる人間模様。浮草家業の役者の悲哀と人々のかかわりをじっくりと描きます。両方見てみると、映画手法の違いや演技指導の差がなかなかによくわかって面白い。カラーの「浮草」は、主演中村鴈次郎。京マチ子脇に杉村春子、三井弘次、若尾文子、川口浩。旅役者や大道具小道具さん呼び込み、お世話役の賄のおばさん。海辺の町の住人たちの暮らしぶり。皆懐かしい人たちです。これらの手練れの演技を堪能するのも映画の大きな楽しみです。それにしても、歩き方しぐさからして鴈次郎はすごい人です。この上方歌舞伎の重鎮が、しがない旅回りの大根役者役とは思い切ったものです。今年は順次素晴らしい日本映画を上演予定。乞うご期待ください!
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